理解しているつもりが、行動を止めていた

朝のやわらかな光の中で、バッグの中にスマートフォンをしまう女性の手元イラスト
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季節だけが先に歩いていった夜

気づいたらね、
同じ場所に立ったまま、
また夜を迎えていた。

カレンダーの端がめくれて、
窓の外の空気が変わって、
去年と同じコートを出した頃なのに、
胸の奥の問いだけは、
ずっと同じ形で残っている。

春に一度、
スマホで何かを調べたよね。
夏にも、
同じページをもう一度開いた。
秋になっても、
その画面は消えないまま。

誰かに急かされたわけじゃない。
何かに失敗したわけでもない。
生活は、ちゃんと回っている。

それなのに、
夜になると、
指が止まる。

「申し込む」
その文字の上で、
親指が少しだけ震えて、
画面を伏せる。

時計の秒針だけが、
小さな音を立てて進んでいく。

何も起きていないのに、
時間だけが、
静かに前へ行ってしまう夜。

動けない理由は、足じゃなくて心にあった

ねえ、昔のわたし。
ちゃんと考えてたよね。
調べて、比べて、
何度も読み返して。

軽い気持ちじゃなかった。
むしろ、
真剣すぎたくらいだ。

怖かったのは、
失敗じゃなかった。
「選んだあと」の自分だった。

選んでしまったら、
もう戻れない気がして。
選ばなければ、
今のままでいられる気がして。

ドアの前で、
鍵を持ったまま立ち尽くすみたいに。

怠けてたわけじゃない。
サボってたわけでもない。

ただ、
心が先に座り込んでいた。

「本当にこれでいいのか」
その問いが、
何度も何度も、
同じ場所をぐるぐる回っていた。

夜の机の上に、
開いたままのスマホ。
閉じたままの未来。

決めていないことより、
決められないままの時間が、
少しずつ積もって、
重くなっていただけ。

占いは未来じゃなく、いまの立ち位置を見るもの

朝焼けの踏切で、線路の先を静かに見つめて立つ女性の後ろ姿のイラスト

占いをね、
遠くの星を見るものだと思ってた。
先の道を、
誰かに決めてもらうものだと。

でもさ、
夜の道で本当に欲しかったのは、
ゴールの旗じゃなかった。

いま、
どこに立っているのか。
それを示す、
小さな印だった。

地図の端にある、
「現在地」という赤い点。

進めと言われると、
足がすくむ。
変われと言われると、
心が閉じる。

でも、
「ここにいるね」と言われるだけなら、
少し、息ができる。

占いは、
未来を引っ張る手じゃなくて、
肩にそっと触れてくる合図みたいなもの。

「迷っている場所」
「立ち止まっている時間」
それを、
静かに照らすだけ。

それでいい夜も、
ちゃんとある。

今日は動かなくていい。ただ、確認するだけ

だからね、
昔のわたし。

決めなくていい。
変えなくていい。

ページを閉じたままでも、
夜はちゃんと終わる。

ただ、
確認するだけでいい。

いま、
どんな気持ちで立っているのか。
何が怖くて、
何を大切にしているのか。

行動じゃなくて、
位置。

前進じゃなくて、
現在地。

夜の道標は、
大きな光じゃなくていい。
足元に落ちる、
小さな灯りで十分なんだ。

それが見えたら、
今日はそれで終わり。

また季節は巡るし、
心も、
少しずつ呼吸を思い出す。

ここにいる自分を、
ちゃんと見つけられた夜なら、
それでいい。

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